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      第64話

「本当に大丈夫だから。そんな顔しないで」  お粥を口に運びながら苦笑している葉琉。しまいには”オレも紅茶飲もうかな”と宣った。 「...なぁ、兄貴、本気?」 「だから怒るなって。ちゃんと自分の限界を分かってて言ってるから」  こめかみに青筋が立っている弟を全く気にした様子もなく、呑気な兄は自分も紅茶を飲みたくてキッチンから新しくカップを取り出す。 「...ねぇ葉琉。限界ってどういうこと?」  自分の限界を知っているSubは総じて一度dropしたことがある者だけである。当たり前のその事実から美智瑠は冷静に親友を問いただした。  しかし葉琉は優しく微笑むだけ。キッチンでお湯を沸かし、ガラス戸のキャビネットから茶葉を取り出す。白いペニンシュラキッチンなので2人から葉琉の様子は見えているので以前と変わらない(親友)の姿に2人は苛立ちを覚えた。 「ちょっと葉琉、答えなさい」 「......答えろって言われても。一度完全にdropしたことあるからとしか言えないけど」 「はぁ?!いつだよ!!」  颯士の怒号でその場が静まり返る。聞こえてくるのは沸き始めたポットだけ。 「...半年くらい連絡を取らなかった時あっただろ?その時にdropした」  遠い目をしながらポットを見つめる葉琉は、一つため息をついて”仕方ないな”と言わんばかりの言い方で暴露した。 「なんで!それなら俺や親父が分からないはず...っ!」 「あの時は雛のことがあって院瀬見は周囲への警戒や対応で手一杯だっただろ。だから気づかなくても仕方ないんだよ」 「それでもおかしいだろ!!」  怒鳴り散らす颯士。しかしそんな弟を前に葉琉はいつも以上に冷静だった。 「...けど、颯士くんのいう通りよ。結構前に葉琉がdropしかけて颯士くんと社長さんはdefence(ディフェンス)を起こしたのよ?まだdropしていない時でさえその状態なのに、その2人が気づかないなんてことあるの...?」  美智瑠のその疑問で葉琉の瞳から少し光が消える。  そもそもDomのdefence(ディフェンス)とは、大切なSubがdropするとそのSubを守ろうとしてdropした原因を排除しようとするDomだけの特性だ。  葉琉たちの場合、葉琉(Sub)がdropしかけただけで颯士たち(Dom)はdefenceを起こしたという実績を持つ。にもかかわらず実際に葉琉がdropした時それに気づかなかったなどあり得ないのだ。 「おい兄貴、どういうことだよ」  その事実に気づかされた颯士はカウンター越しに兄に詰め寄る。  しかし葉琉がなにかをいうことはない。ただ紅茶を優雅に淹れるだけ。その瞳が少し陰っているが、紅茶を見つめて下を向いているため2人はそのことに気づけなかった。 「...どうしても言ってくれない訳ね」  親友として長い付き合いのある美智瑠はこの葉琉という人物がこれと決めると梃子でも動かないことを十二分に理解していたため、盛大なため息を吐くしかなかった。  それは颯士も同様で、ずっと憧れて尊敬している一人であり、なによりも家族として兄のことを愛している弟は兄がどれ程頑固な天然くんか理解している。 「たくっ...。調べようにも兄貴のことだから、調べられないようにしてるんだろ」  そういうところ嫌いだわ。と珍しく兄に悪態を吐く若干ブラコンが入っている弟。葉琉もまさか嫌いとまで言われるとは思わなくて目を見開いて颯士を見た。 「もうそれについては聞かないわよ。でもね、次こんなことがあったらその時は容赦しないわよ」  ジト目で、しかしお茶目にいう美智瑠。  そんな日常をくれる2人に葉琉は”ありがとう”と小さく呟いた。 「で、今日は安静にって言わなかったかしら」 「兄貴が聞くわけねぇだろ」  呆れた2人を引き連れて、葉琉は自由が丘のカフェに来ていた。 「だってここ気になってたからさ」  メニューを見ながら瞳をキラキラさせる葉琉。そんな(親友)を見ると2人はそうそうに連れて帰ることを諦め、葉琉のことを静かに見守っているだけだった。 「そんなに気になってたの?」  ここは紅茶専門のカフェ。店内はデザイナーズのデザインになっており、壁には世界の紅茶のラベルが貼られている。 「半年くらい前にオープンしたんだけど、美味しいって評判で。紅茶はもちろん美味しいけど、マフィンが有名なんだってさ」 「マフィンねぇ...。兄貴って甘いもの嫌いじゃない訳?」 「ここのマフィンは紅茶に合わせて甘さが控えめらしい」  なるほどね。と颯士は思いつつ、葉琉の甘いものへの執着がなくなっていることを確認して安堵していた。それは美智瑠もまた同じようで、「じゃあ私はリンゴのマフィンにしようかしら」とかなりの上機嫌のようだった。 「颯士はどうする?さっき紅茶飲んでたろ?」 「あー、ならアイスにしよっかな」  メニューの紅茶を吟味しながら店員を呼ぶ颯士。  美智瑠はセイロンのミルクティーとリンゴのマフィンを。颯士はアイスのジャワティー、葉琉はキームンのストレートティーとプレーンのマフィンを注文した。  店内は白を基調とした作りになっており、店の表はオープンテラスになっていて花粉症がなければとても気持ちのよい午後のひとときになっただろう。 「......仕事も当分できないし、どうせなら行きたいところに行こうかな」 「あら、どこに行きたいの?昼間でいいなら私も一緒に行きたいわ」 「なら俺も行く」  どうやっても離れる気のない2人に葉琉は呆れつつ、心配してくれているのがとても分かるので特に否定することはしなかった。 「とりあえずコンラッド東京のアフタヌーンティーと宇都宮の餃子かな」 「餃子?お取り寄せしたらいいじゃない?」 「食べに行くのが楽しいんだって」 「んじゃ明日行くか、宇都宮」  こういうときの颯士の行動力と決断力は凄まじい。宣言したと思ったら既にスマホを持ちどこかへ連絡している。  ここにいる3人は優柔不断とは縁もないが、颯士には2人して呆れていた。 ーーーーーーーーーー ちょっとほのぼの回が続きます ...濡れ場は今から着々と作ります(・・;) コメント嬉しかったです!! 頑張らなきゃって気合い入りました(☆∀☆) 毎日更新できるように頑張ります...っ

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