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      第65話

 翌日。GW直前の木曜日ということもあり、まだ混んではいない国道4号を北上する葉琉たち3人。いや、院瀬見家の運転手を颯士が駆り出したので4人か。  昨夜22時前に帰宅した紫桜は、安静にしなければならないはずの葉琉から「餃子食べに宇都宮行ってくる」とまるで”近所に買い物行ってくる”のノリで言われ思わず固まっていたが、小旅行=泊まりがけという方程式が成り立っているのか次の瞬間Glareを盛大に吹き出しながら迫ってきた。 〈ちょっ!...っぅ...んぁん......〉  Glareに抵抗しながら向かい合っていた紫桜に抱きつく。まさか抱きついてくると思わなかった紫桜は歓喜で全てが止まった。 〈っぁ...、ちゃんと、夜には帰ってくるから...っ!〉 〈......帰ってきてくれるのか?〉  恋人が止まった瞬間に伝えなければならないことを簡潔にいう。すると恋人は目を見開いて母犬に捨てられかけている子犬の如く、葉琉にすがり付きながら確認してきた。  思わず可愛くてクスクス笑いながら頭を撫でると、恥ずかしがりながらオレのお腹に頭を押し付けてきた。  ...ほんと、こういうとこは可愛いよな、社長って。  そのあとは一緒に抱き合って寝た。さすがにこれ以上無理はさせられないといい、後ろからバックハグされながら寝た。  ......1時間くらい(うなじ)にキスしながら下腹部を撫でられていれば、寝れるものも寝れなくなるに決まってるだろう。  もちろん、今日の朝も思いっきり寝坊したのは明白だった。 「兄貴、コンビニとか寄る?」  車に乗った瞬間夢の世界に旅立ったオレがボーッと窓の外を見ていると、颯士が隣から声をかけてきた。  本当になんでも見ているな、コイツ。 「...いや、いいや」 「ちょっと、起きてなにも食べてないでしょ?コンビニでおにぎりでも買って食べなさいよ」  助手席の美智瑠がオカンになる。  お腹は空いてるが餃子のために食べてない。けど、このままじゃ食べないとずっとブツブツオカンに言われそうだ。 「...じゃ、次のコンビニ寄って」 「畏まりました」  院瀬見本家の運転手は葉琉に丁寧に接してくれる。院瀬見家に仕える使用人たちは、葉琉がいずれ本家に戻ってくることを心から望んでいた。もちろん、それは葉琉を追放した張本人である大祖父を除き全員が公言していることだった。  まぁ、一度言ったことはなかなか変えられないだけで、大祖父様もオレを勘当したことを後悔してるって聞いてるけど。  塩おにぎり一個をゆっくりと完食し、ちょうどお昼時に宇都宮に到着することができた。 「兄貴、どこの店がいいとかあるの?」 「いや?特にないかな」 「あら、昨日のカフェはこだわり持っていたのに、ここはいいの?」 「どこも美味しいだろうからいいかな。カフェはオレが紅茶に凝ってるから」  車窓から店を物色する葉琉。美智瑠は運転手と店を探し、颯士はSNSで情報を集めていた。  結局決まったのは”The町中華”という感じの少し古びた店。大通りから一本入ったそこは、かなり混雑しているが席は空いていた。 「じゃあにんにく抜きでヤキ(焼き餃子)5枚とスイ(水餃子)2つで」 「ちょっと葉琉、もしかしてそれ全部1人で食べる気?」  店に入った瞬間いきなり注文する葉琉に、まさかと思いつつ美智瑠が聞いてみる。高校時代の葉琉が時折5人前の昼食を取っているのを知っている美智瑠だが、卒業後は1人前に押さえるようにしているのは知っていた。  ちょっと、まさか朝食をそんなに食べなかった理由って...。 「颯士たちはどうする?」  気づいた美智瑠は無視し、葉琉は弟と運転手に聞く。 「じゃあ俺は普通のヤキ3枚とアゲ(揚げ餃子)4枚で」 「私はA定食にします」 「ちょっと、私は無視?!」  院瀬見兄弟に振り回される美智瑠と、それを楽しく見ながら護衛している運転手。それが彼らの本来の姿だった。  到着した餃子を片っ端から食べ尽くす葉琉と颯士。なんなら追加で焼き餃子と水餃子を6人前注文している。 「...ちょっと、院瀬見兄弟は大食いなの?」 「昔からですよ、美智瑠様。夏輝様は普通ですが」  笑顔の運転手。まだ葉琉が叔父の養子になる前、本邸で家族揃って食事をしていた時もたまに兄弟一緒に満腹のリミッターを解除したんじゃないかというほど大食いしている時があることを、この運転手は知っていた。  また葉琉と颯士の大食いが見れると思うと、自然と笑顔にもなる。 「で?この後はどうするの?」  フードファイトしている兄弟に自分も焼き餃子を食べながら何気なく聞く。 「んー...、特に決めてないからお土産の餃子買って都内に戻ろうかな」 「宇都宮まで来たのにいいの?」 「だって目標は達成したし」  餃子以外は興味ないと言わんばかりの葉琉に美智瑠は呆れる。ブラコンの颯士は兄が決めたことなら反対しないと視線で語っていた。 「松が峰教会とかどうかしら。綺麗な石造りらしいわよ」 「...別にいいかな」 「んじゃ、これ食べたら帰ろ」  考えながら提案する美智瑠を一瞬でぶったぎる葉琉。興味ないことはとことん興味がないらしい。そんな兄を全面的に支持する颯士は、大量のにんにくに顔をしかめながら”うんまぁ...”と満足しているらしかった。 「すみません、持ち帰りで冷凍餃子10枚ください」  笑顔でいう葉琉。帰っても大食いする気か。と美智瑠は呆れながらも「絶対10じゃ足りないでしょ。すみません、追加で15枚ください」とちゃっかり注文していた。

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