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      第68話

 翌朝、葉琉が起きたのは11時を回る頃だった。起こした体がどこか気怠い。特に腰の辺りを筋肉痛に似た鈍痛が襲う。一度起こしかけた上半身が自然とベッドへと逆戻りしていく。  ...いくらなんでも、風呂場で襲うか?  自然と深いため息が出ていた。  ーコンッ コンッ  そんな呆れる葉琉の元へ控え目なノック音が届く。今この家にいる可能性があるのは紫桜か美智瑠だが、家主の紫桜がノックをするはずもなく、必然的に相手が美智瑠だと分かった。 「...っ、どうかした?」  なんとか声を絞り出すが、正直言って葉琉の喉はガサガサに枯れていた。 「たく...、一応あなたは絶対安静の筈なのにね」  やっぱり...。と盛大なため息を吐きながら500mlの水のペットボトルを手に美智瑠が寝室に入ってきた。もう片方の手には湿布がある。  何も言わずに持ってきてくれた親友に、葉琉は恥ずかしいがとても有り難く感じていた。 「ほら、とりあえず飲みなさい」 「...悪い」  謝る前に飲め。と視線で語ってくる美智瑠。体を起こすのを美智瑠に手伝ってもらいながらゆっくりと喉を潤した。乾燥しきっていた喉を冷たい水が伝う。勢い良く飲み干していく親友を見て、美智瑠は紫桜に呆れつつも仕方ないか。と諦めてさっさと葉琉の腰に湿布を貼っていた。 「私今日は仕事だからもう出るけど、くれぐれも安静にしてなさいよ」 「分かってるって。どうせ仕事用のノートPCは手元にないから仕事なんてできないし、何より昨日読みかけの小説が気になって仕方ない」  風呂場へ連行されるまでソファで読んでいたサンソン回想録が、まだリビングに放置されているはずだ。紅茶を飲みながらさっさと読んでしまおう。  少しボーッとしている葉琉の考えなど美智瑠にはお見通しのようで、「ほどほどにしなさいよ」とオカンが登場していたのは言うまでもなかった。 「じゃ、また明日来るわ。ちゃんとゆっくりしてなさいよ」 「行ってらっしゃい」  玄関まで美智瑠の見送りをする。葉琉が欠伸をしながら見送りしてくれるのを見ていると、紫桜が殺気立って嫉妬しそうだなと思いながら美智瑠は帰っていった。  一人残された葉琉はキッチンで紅茶を淹れる。ソファには案の定、小説が投げ捨てられている。 「......はぁ」  しかし葉琉は小説には目もくれず、プライベートのスマホを手にしどこかへとコールした。 《...お疲れ様です。もう大丈夫なんですか?》 「なんとかね。それで、そっちはどうなってる?」  3コールで出たのは女性。それも声からするとかなり若い。 《葉琉さんの予想通りでした。彼は本気であなたを手にいれようとしています》 「それと同時に雛を殺そうとしてる?」 《......はい》  神妙に電話口の彼女が返事をする。予想していたとはいえ、家族のような存在の雛を殺そうとしている相手に葉琉は思わずカップを投げそうな衝動に駆られた。 「そのまま協力する振りをして取引続行で。オレを狙う分には構わないから」 《それは...っ!しかし、あなたのパートナーや家族が何て言うか》 「すべて終わるまでは何も悟られることは許されない。すべて終わったあとにオレが思いっきり怒られるから」 《......笑っている場合ですか》  ため息を吐く彼女に、葉琉はクスクスと笑っている。 《...わかりました。ではそのように。...何か詳しく分かり次第また連絡します》 「ほんとごめんね、こんなスパイみたいな役割」 《いえ、私の命はあなたに助けられたんです。4年前のあの日、殺される運命だった私はあなたによって救われた。だからあなたのために働かせて下さい》  それが何よりの喜びです。と満足気に断言する彼女に、葉琉は思わず言葉を詰まらせるが特に何も言わない。違うと言っても彼女が全否定することは目に見えている。  ソファに座り紅茶から漂う白い湯気を見つめる葉琉。昼の暖かな日差しが大きな窓から上品なレースカーテンを通して入ってくる。思わず昼寝へと誘おうとする日差しに対抗したくなり、とりあえずキッチンに立ってみた。 《歌舞伎町のあの事件から特に表だった動きがなかった彼らが、こうも急に動き出したんです。...本気であなたと雛さんを狙っていると見てまず間違いないかと》 「......」  彼女の真剣な言葉に葉琉は押し黙る。歌舞伎町で襲撃されたあの4年前の事件の真相は院瀬見家の中で葉琉以外は意識不明のままの雛しか知らない。それを再認識させられ、葉琉は今度こそ家族は絶対に守ると静かに誓った。 「多分今年中には終わると思う。その時にオレがどうなっているかは全然わからないけど、院瀬見の人間含め、紫桜と君もちゃんと守るよ、(キョウ)。大切な姉を昏睡状態にした奴らだ。けど、自分を失って勝手に攻撃しないようにね」 《......はい。葉琉さん》 「そんな拗ねたような声ださないでよ」 《だって、私は雛姉さんの復讐のために院瀬見家を出たんですよ?ちょっとくらい...》 「安全な復讐なら構わないけど、それはすべてが終わってからだ。いいね?」 《.........わかりました》  不満そうな声を隠しもしない彼女、京。実の姉である雛を4年前の歌舞伎町で昏睡状態にされ、院瀬見家(実家)を出て独自に真相を探り正しい真実を手に入れた猛者でもある彼女は、復讐することを考え殺されかけたところを葉琉に助けられた過去を持っている。  そんな彼女は家族にも会わず、ただ彼らを潰すために葉琉に協力していた。 「そろそろ切るよ。決して危険なところへは首を突っ込まないこと。いいね」 《...わかってます》  捨てセリフをいうと京はブチッと通話を切ってしまう。絶対言うこと聞かないだろうな。と思い苦笑しつつも、これから起こるだろう家族や恋人に絶対に知られてはならない作戦を成功させるべく、京とは別のところへも連絡を取り始めた。 ーーーーーーーーーー ちょっときな臭くなりました、スミマセン... 「こんな展開いらねぇよっ!」って方も絶対いるのは承知ですが、一応プロットには沿ってます(-_-;) すっごい詰めが甘いかもですがごめんない! 明日の更新は無しです 次回更新は日曜を予定してます

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