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黒橡の白露 第70話

 GW初日。朝ギリギリまで寝ていた葉琉は朝の日課である紅茶を楽しむこともできず、三軒茶屋にある神代家に向かっていた。助手席にいる葉琉は新しい小説を読んでいる。 「次は何を読んでいるんだ?」  運転手をしている紫桜は赤信号のタイミングで葉琉に軽くキスをしながら聞いてくる。 「......ノルウェイの森」 「村上春樹か。恋愛小説も読むんだな」 「特に読まないって分類はないけど」  紫桜の急なキスにもジト目はするがそれ以上の反応をしなくなっている葉琉を前に、紫桜は至極ご満悦な笑みを浮かべる。   「そういえばこの前読んでいたサンソン回想録はどうだったんだ?」 「......どうだったかな」 「...悪かった、機嫌を治してくれ」  ぶっきらぼうな返事をする恋人に少し焦る紫桜。 「別に悪い訳じゃない。...ならお昼にパスタを食べに行かないか?美味しいパスタを出すパン屋さんがあるんだ」 「それは楽しみだな」  本に栞を挟みながら提案する葉琉。葉琉が話を逸らしたことは気づいているが、特に突っ込まなかった。  ギリギリお昼時から外れているAM11:39。三軒茶屋駅から少し歩いて一本路地に入ったところにあるそのお店にはすでに多くのお客さんがいた。入り口からすぐのところにある冷蔵ショーケースの中には、お店オリジナルのミートソースやチーズ、ワインに合いそうなパウチタイプの生ハムもあった。 「2名様ですか?こちらへどうぞ」  席は空いているようだ。そこまで広くはない店内には家族連れや友人同士であろう女子たち、それ以上にデート中であろうカップルがいっぱいいた。  通されたのはテラス席。まだそんなに暑くない季節ということもあり、葉琉は心地よく小説の続きを読んでいた。 「葉琉、ここのミートソース買って帰るか?」  入店した瞬間に葉琉が目を輝かせてミートソースを直視していたことに気づいていたらしい。一瞬だったこともあり気づかれていないと思っていた葉琉は思わず本から顔をあげ、自分を愛しそうに見つめている恋人を直視してしまう。 「俺を誰だと思っているんだ?」  わからないわけないだろう。と自信満々のこの恋人はどこまでも葉琉に甘いらしい。注文するときに暖かいアールグレイも忘れなかった。  「食後にいいだろう。今朝は飲めなかったからな」 「......お陰さまで」  別段朝が格別弱い訳ではない葉琉は、寝坊した原因である張本人を軽く睨んだ。 「お待たせしました。毛ガニのボロネーゼとアスパラガスとサワラのペペロンチーノです。アールグレイは食後にお持ちしますね」  葉琉は大好物のボロネーゼ。紫桜は季節限定のペペロンチーノ。ランチセットのポタージュとガーリックフランスも届き、昼食の時間はゆっくりと過ぎた。 「...着いたな」 「あれ、緊張なんてするんですね」  PM14:00過ぎ。ゆっくりと昼食を楽しんだ2人は、神代家に到着していた。珍しく緊張しているような面持ちの紫桜に、葉琉は思わずおちょくってしまう。クスクスと笑っている葉琉が気に食わなかったのか、はたまた可愛かったのか、紫桜は吸い寄せられるように葉琉に噛みつくようなキスをした。 「あらあら、熱いわねぇ」 「仲が良くていいじゃないか」 「...紹介します、母さんと父さんです」  紫桜が固まったのはいうまでもない。  しかし持ち直すのも最速で綺麗なお辞儀をした。 「始めまして。神代葉琉君とお付き合いしています、七々扇紫桜と申します」 「これはこれはご丁寧に。葉琉の父の神代悠理(ユウリ)です」 「母の(アン)です。こんなところじゃなんだし、中へどうぞ」  優しさが滲み出ている神代夫妻。優しさもそうだが、何よりもおっとり感が葉琉に瓜二つだと紫桜は内心思っていた。  閑静な住宅街の中にある神代家。2階建ての白い一戸建ては庭が丁寧に手入れされているのがすぐにわかった。リビングに通された紫桜は手土産に持ってきたマフィンを杏に渡し、悠理と一緒にダイニングテーブルへと掛ける。 「葉琉、ちょっとこっち手伝ってくれない?」 「ん、カップ出したらいい?」  葉琉は杏に呼ばれてキッチンへと向かう。   「葉琉があんなに笑顔なのは高校の時以来じゃないかな」  懐かしむように葉琉を見ながら目を細める悠理。紫桜もキッチンへ視線を向けると、母と一緒にどの茶葉にするか迷っている恋人の姿があった。 「...七々扇家の方なら葉琉が私の実子じゃないことは知っているかな?」 「......はい。調べるような形になってしまいましたが」 「はは。構わないんじゃないかな。...葉琉は私の兄の長男でね、娘だけだった私たちのところに養子に来たいと本人が言ったときは本当に驚いたよ」  苦笑している悠理。視線は葉琉と妻に固定されているが、その目には過去を思い出しているようだった。 「君も知っての通り、院瀬見家はそれぞれが実業家であり投資家でもある一族だ。ただでさえ危険が付き纏うのに、それが"最下層"とほとんどのnormal(ノーマル)から見下されているSubだと判明して兄を始めどうやって葉琉を守ろうかと必死になって考えていた」  しかし院瀬見家の長男として既に葉琉は社交界や政財界、色々なところで注目の的だった。君もそれは知っているだろう?”神童”や”天才”と小さい頃から呼ばれていた葉琉のことを。このまま表から退くと”院瀬見家の長男はSubだ”と公言してしまうようなものだ。  しかしその時院瀬見家の深窓の令嬢が意識不明になり、その原因が葉琉だった。勢いとはいえ、当主だった私たちの父が葉琉を勘当することにより葉琉は私の養子になった。  悠理が悲しそうに葉琉の過去を話す。  それは世間一般の認識と同じで、6年前に消えた院瀬見家の長男の話だった。 ーーーーーーーーーー ちょっと読みにくいかもです... 矛盾してないといいけど...いや、大丈夫です!(・・;)

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