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第73話
西園寺本家から静かに出たミカゲは、少し遠くに停めていた自分の車に乗り込み大きくため息を吐いた。黒ロングのウィッグに手をかけるが誰が見ているかわかない今、取る訳にはいなかい。そう思い止まる。
「...とりあえず連絡しなきゃ」
そういってスマホを取り出すミカゲ。ダイヤルマークをタップし11桁の番号をタップする。
『...どうしたの』
「西園寺家の長男と話が終わったので連絡をと思いまして」
『どんな反応だった?』
「あなたのことを疑っていたというか、もはや確信してましたね」
『だろうねぇ。なんて返したの?』
「誤魔化す方が悪手かと思ったので”K”という人物がいるということにしましたが、よかったですか?」
『Kさん...。まぁいんじゃないかな』
電話の相手は”ふーん”と言いたげな雰囲気を醸し出している。
「西園寺弟の方には”京”として特に身分を隠さず接近したのは大丈夫なんですか?」
『ん?逆に京である方がいいんだよ。だって神代京は姉を連れ出して意識不明にさせた原因であるオレを恨んで家と絶縁したってことになってるんだから』
京 はなにか言いたげな表情をしているが、電話の向こうの葉琉は気づくことはない。まぁ今の顔を見られると葉琉は苦笑するだけだろうが。
「まぁいいですけど。それより、ただのトレーダーとよく会ってくれましたよね、篤孝さん」
『オレが匿名で次男のことチクったからね。その直後に急に来たからだと思うよ』
「え、じゃあ篤孝さんは私に指示している人を」
『うん、存在はわかっているはず。ただ、それがオレだとは気づいてないだろうけど』
そんな素振り一切見せなかったのに。
その言葉を飲み込み思わず歯を思いっきり食い縛る京。自分が葉琉の足を引っ張っているんじゃないかとどんどんマイナス思考に陥っていく。
『京、君は十分やってくれてるから落ち込むなよ。篤孝さんにオレの存在がバレるのは想定範囲内だから。指示している人物の存在を匂わせるのはいいことだし』
それでも不貞腐れる京。葉琉はクスクス笑っている。
『絶対に危険には飛び込まないこと。それだけは約束してくれ』
「...わかりました」
本当かな...。と呟いているのが聞こえる。無意識の声だろうが、京にとってそれが存外嬉しかった。
そのまま通話が終わり、車内は思い沈黙が支配した。
「...まぁ、オレだと気づかれても支障はないんだけど」
京と通話を終えた葉琉は社長室で呟く。今紫桜は藤堂副社長とオンライン会議に参加するため、小さい会議室にいる。会議といいつつ報告会になるのは目に見えていたので葉琉は社長室で自分の仕事を片付けていた。
「...西園寺の情報は京に頼んで、あとはアイツと組んでいるであろう人物だけ...。どこのどいつなんだか」
自分のプライベートPCを開き、西園寺について調べていく。特にこれといって新しい情報が出るとは思えないが、なにかしていないと落ち着かなかった。西園寺の次男・承世 が雛を殺そうとしているだけでも葉琉にはストレスだというのに、それだけでなく院瀬見家をも狙っている今、安城医師のところへ行くと確実に入院させられるほど葉琉はまた薬に頼っていた。
もちろん、それは葉琉だけの秘密である。こんなこと、紫桜にバレた日には即刻入院だけでなくPCを取り上げられ外との接触をシャットアウトされるのは間違いなかった。
「...過保護だからなぁ、全員」
紫桜以外にも颯士や美智瑠の顔を思い出し、葉琉は思わず苦笑する。そんなことを思いつつプライベートPCをシャットダウンし片付けた。そろそろ紫桜が戻ってくる時間だ。
「...葉琉、いい子にしてたか?」
「オレは小さな子供か?」
「目を離したくない愛しい恋人だが?」
さらっとそんな恥ずかしいことを言う紫桜。満面の笑みで葉琉の額にキスを落とすことも忘れない。顔を赤くし唇を尖らせる葉琉だが、それさえ愛しいと言わんばかりの笑みをさらに深められると葉琉は紫桜を直視できず視線を逸らした。
「仕事は進んだか?」
「緊急案件は私で処理できるものは終わりました。社長の確認が必要なものはデスクに。それから、ヒューストン支社へまた出張しなくてはならないかと」
「何かあったのか」
秘書モードになり雰囲気が切り替わる葉琉を前に、紫桜も社長として顔を引き締める。
「製菓部門でハロウィンのイベント概要が決まったとのことで、最終確認を実際に見てほしいとのことです」
「オンラインでもいいだろうに」
「それと、ティムさんとMr.カコールから大量の招待状が届いているとのことですが、いかがなさいますか?」
初夏に差し掛かった今日この頃。社交界がシーズンインするとのことで様々なところから招待状を受け取っている紫桜。招待状には”パートナーとの参加を楽しみにしている”と一言付け加えられていたらしいが、それはあえて言わない。
「...面倒だな」
ため息を吐きながら書類の最終確認をしている紫桜。葉琉のことを見せびらかしたい節があるこの社長は、招待状の一言を教えると確実にすべてのパーティに参加するといいかねない。表舞台には極力出たくない葉琉は必要な部分のみ伝えた。
「いつものようにリストアップして送ってくれるよう伝えてくれ」
「かしこまりました」
第2秘書からパートナーも是非。とかかれているのを知っていた社長は、あえてそのことを言わなかったこの第1秘書にあとでお仕置きをしなければと悪魔の笑みを浮かべたことを第1秘書は気づかなかった。
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お久しぶりです。
GW思いっきり楽しみまして、全く更新できませんでした...
忙しくなってきて毎日更新は難しいかもしれませんが、お気に入り してお待ちいただければと思います...!
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