75 / 87

      第74話

お待たせしました…っ! ――――――――――――――――――――  社長室は平和な日常が流れる。気を抜けば忙殺されるであろう仕事量に慣れ始めた葉琉は、珍しく一人で外出していた。なんでも社長は実家の私用で2時間程席を空けるとの事。急ぎであれば連絡してくれて構わない。とのことだったため、葉琉は一人会社近くのカフェでランチタイムを楽しんでいたのだ。 「…うまそ…」    目を輝かせた彼の目の前に置かれたのはアフタヌーンティーセット。プレーンとチーズ、バジルとチョコのスコーンを始め、フィンガーフードにはハムサンドやフルーツサンド、サーモンとクリームチーズとオリーブのブルスケッタ、アフタヌーンティーには少し珍しいピッツェッテ(一口ピザ)。ベジタブルピンチョスは彩を添え、チコリに可愛く乗ったズッキーニのバターソテーはとても香りがそそられた。  そして何より不思議なのは、アフタヌーンティーにも関わらずそのスタンドには一切の甘味がない事だ。 「あ、うんま…」  手始めに一番下にあったホカホカのプレーンスコーンを口に運ぶ。外は程よくサクサクだが、中はホカホカで一切パサつかないスコーンに感動しつつ、自分の頬が緩んでいることを自覚しながら次は自家製バターを薄く掬う。  甘いものが苦手な葉琉は、いつの間にか顔なじみになっていたオーナーシェフの好意により甘味の代わりに様々なフィンガーフードを追加してもらっていた。 「相変わらず幸せそうに食べますね、神代さん」 「そりゃ戸田さんの作るアフタヌーンティーは最高ですから」  そこにオーナーシェフの戸田さんが一つ皿を手にこちらにやってきた。体格の良い彼はいつも幸せいっぱいの笑顔を浮かべている。 「これ、まだ試作品なんですが、良かったらどうです?」 「え、いいんですか?」 「神代さんの舌は確かですし、何しろ幸せそうに僕の料理を食べてくれますから」  葉琉の前に置かれたのは、薄くスライスした紫大根にバーブでソテーされた鶏肉とピクルスでできたピンチョスだ。彩がとても良く大根とピクルスは冷たいながらも鶏肉から湯気が上がっているこの料理は、これから夏に向けて人気になるだろうと葉琉は瞳を輝かせた。 「大根とピクルスでさっぱりしつつ、鶏もものハーブ焼きがとてもジューシーでおいしいです」 「ならよかった!鶏ももにしようかヒレ肉にしようか迷ってしまって。女性にも喜ばれるのは鶏ももかなと」 「年中そうですが、特に夏は太りたくないですからね」  いつかの夏、妹が少し体重が増えたのを気にしてダイエットをする!と言い出したのを思い出した葉琉は、思わず苦笑する。その時の父の狼狽えようはとても見物だったのを覚えていた。  いつも冷静なあの父が、一人娘がダイエットをして彼氏を作ると言い出したあの夏、なぜか父の海外出張へ妹と弟が強制連行されていった。母が付いていくのはいつもの事だが、その時の父は葉琉以外を無言の圧で連れて行った。(ちなみに、オレはその時既にアメリカの大学にいたので除外されたが)  妹に面倒だと電話で散々泣き付かれたのは本当に鬱陶しかった。父に連絡するも無言を貫かれ、母に至っては「いいじゃない。楽しそうだし。なんなら葉琉もいらっしゃいな」と宣って下さった。その原因が夏輝の発言だと知った瞬間、夏輝からの連絡を一瞬でシャットアウトしたのは記憶に新しい。 「そういえば、今日は社長さんはいらしてないんですね」  いつも一緒にいる社長がいない事を不思議に思っている戸田さんはキョトンと葉琉を見やる。 「さっきまでは一緒だったんですが、ご実家の用事で少し外されてます」 「そうなんですね。いつも一緒にいらっしゃるイメージだったので思わず」 「まぁ専属秘書ですから。毎日一緒にいるのが仕事みたいなものです」  苦笑しながらパプリカのピンチョスを口にする葉琉。甘酸っぱい様な優しい酸味が口に広がった。 「なるほど。大変ですね、秘書さんも」 「やりがいはありますから」  ニコニコの2人に店内の女性たちが目の保養と言わんばかりにうっとりと視線を向けている。戸田さんはプーさんの様なマスコットキャラで女性たちに癒しを与え、葉琉は自覚しない圧倒的容姿の良さで女性たちの憧れの的だった。そんな2人が微笑み合っている。居合わせた彼女たちは写真を撮りたい衝動に駆られたが、そこは思いとどまった。 「そうだ。今度新しくエスカルゴとチーズを使った料理を考えているんですが、そこの社長の娘さんと京都の西園寺家の次男が一緒にいるところを見ましてね。何やら親し気だったんですが何か知ってますか?」 「その娘さんとは?」 「マルティネス家のお嬢様ですよ」 「…特に話は聞いてませんが。戸田さんはそのいつ知ったんですか?」 「つい昨日ですよ。知り合いのフレンチに妻とお邪魔した時にたまたま」 「都内ですか?」 「ええ。新宿です」 「…そうですか」  その言葉でどうやって探そうか考えていた人物が突き止められた葉琉はニヤリと口角が怪しく歪む。 「神代さんもそんな表情されるんですね。今の神代さん、七々扇社長と瓜二つですよ」 「そりゃ、オレも人間ですから。悪巧みの一つや二つしますよ」  クスクスと笑いながら「では、アフタヌーンティー楽しんで下さいね」と言い残しキッチンへ戻っていく戸田。葉琉は冷えた紅茶を片手にこれからどう動くか目を細めた。 ―――――――――――――――――― ほんっとうに遅くなりすみません!! 絶賛大学がテスト中のため勉強大会を開催してました… でも言い訳になっちゃうのでほどほどに。 またガンバリマス!  

ともだちにシェアしよう!