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第一章・4
『今まで母さんを、惠を放っておいて、いまさら何だ!』
父に対して、頑なになってしまった兄の心。
優しい父を、すぐに慕うようになった惠は、瑛一に後ろめたさを感じていた。
(兄さん、僕のこと嫌いになっちゃうかな)
惠が父を慕えば慕うほど、遠ざかってゆく兄。
『ふん。俺はこんな御大層な屋敷には住みたくない』
そんなことを言っていた瑛一だが、本当にあまり藤堂邸に寄り付かなくなってしまった。
どこで何をしているのやら、外でばかり寝泊まりするようになってしまった。
「兄さん、今日も帰って来ないんだね」
痛む惠の胸も知らずに、無断外泊を続けていた。
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