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第一章・5

 藤堂の家に、惠が暮らし始めて一ヶ月。  急に瑛一が、ふらりと戻ってきた。  暮らすには藤堂邸は落ち着かない、といつもふらりと出てゆく瑛一。  今回も、出て行った時と同じように、ふらりと戻ってきた。  ただその手には、妙にぴかぴか光る新しいハサミを持っていた。 「惠、そこから動くな」  自分の部屋で雑誌を読んでいた惠は、突然現れた兄に驚いた。  しかも手を伸ばしてその髪に触れ、ハサミを入れようとしているのだ。 「ちょっと! 何するの、兄さん!」 「散髪だ。もっと短く切ってやる」 「やめ、てよ。もう!」  兄の手首を掴んで必死で抵抗すると、ハサミが床に落ちてしまった。  かがんで拾う瑛一の隙を見て、惠はひとっ跳び間合いを置いた。

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