9 / 163
第一章・9
「誤解させてすみません。僕はこの通り、男なんです。でも……」
でも、とは?
これには瑛一も、惠の顔に目をやった。
「兄さん、話してないんでしょう? ごめんなさい。兄、実はゲイなんです」
「な……ッ!」
目を円くする女性に、絶句する瑛一。
そんな大人たちを置いて、惠はどんどん嘘話を披露していった。
「僕を求めて来る事もあるから、きっと雰囲気で見間違えたんだと思います。僕も……、いけない事だって解かってるんですけど……、やっぱり拒めなくって……」
伏し目がちな惠の瞼の長い睫が、心なしか濡れているようにも見える。
すぱーん! と瑛一が惠の頭をはたき、イタズラ小僧の弟はけらけらと笑い始めた。
「本気にするなよ!? 惠、誰がゲイだ! 誰がお前の事を!?」
「あはは。ごめんなさい。嘘で~す!」
ともだちにシェアしよう!