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第一章・9

「誤解させてすみません。僕はこの通り、男なんです。でも……」  でも、とは?  これには瑛一も、惠の顔に目をやった。 「兄さん、話してないんでしょう? ごめんなさい。兄、実はゲイなんです」 「な……ッ!」  目を円くする女性に、絶句する瑛一。  そんな大人たちを置いて、惠はどんどん嘘話を披露していった。 「僕を求めて来る事もあるから、きっと雰囲気で見間違えたんだと思います。僕も……、いけない事だって解かってるんですけど……、やっぱり拒めなくって……」  伏し目がちな惠の瞼の長い睫が、心なしか濡れているようにも見える。  すぱーん! と瑛一が惠の頭をはたき、イタズラ小僧の弟はけらけらと笑い始めた。 「本気にするなよ!? 惠、誰がゲイだ! 誰がお前の事を!?」 「あはは。ごめんなさい。嘘で~す!」

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