10 / 163
第一章・10
女も付き合いで笑ってはいたが、その表情は今まで見た事の無いものだった。
瑛一と惠とを、慈愛で包み込むような顔をしているのだ。
甘くて熱い、溜息まで吐く始末だ。
瑛一は諦めた。
(こいつ、すっかり俺と惠との間に何かあると勘違いしたに違いない!)
その後はデートの予定だったが、当の女が惠まで一緒に連れて行くと言ってきかない。
惠クン惠クンとやたら弟をいじり、瑛一と絡ませたがる姿勢に兄も参った。
屋敷に帰った時には、瑛一はやけに疲れてしまっていた。
「あいつとは、これで終わりだな。お前のせいだぞ、惠」
「あれくらいで別れるなら、どうせ長続きしなかったよ」
小癪な弟・惠は猫が喉を鳴らすように笑いながら、瑛一をからかい続ける。
「ごめんね。一緒に夕食まで御馳走になっちゃって」
「別にかまわない」
「でも、ホントなら今頃、彼女さんと一緒にホテルに行ってたんでしょ~」
「しつこいぞ」
「邪魔して、ホントにごめんね~」
「くどい!」
ともだちにシェアしよう!