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第一章・10

 女も付き合いで笑ってはいたが、その表情は今まで見た事の無いものだった。  瑛一と惠とを、慈愛で包み込むような顔をしているのだ。  甘くて熱い、溜息まで吐く始末だ。  瑛一は諦めた。 (こいつ、すっかり俺と惠との間に何かあると勘違いしたに違いない!)  その後はデートの予定だったが、当の女が惠まで一緒に連れて行くと言ってきかない。  惠クン惠クンとやたら弟をいじり、瑛一と絡ませたがる姿勢に兄も参った。  屋敷に帰った時には、瑛一はやけに疲れてしまっていた。 「あいつとは、これで終わりだな。お前のせいだぞ、惠」 「あれくらいで別れるなら、どうせ長続きしなかったよ」  小癪な弟・惠は猫が喉を鳴らすように笑いながら、瑛一をからかい続ける。 「ごめんね。一緒に夕食まで御馳走になっちゃって」 「別にかまわない」 「でも、ホントなら今頃、彼女さんと一緒にホテルに行ってたんでしょ~」 「しつこいぞ」 「邪魔して、ホントにごめんね~」 「くどい!」  

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