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第一章・11

 瑛一の大振りのゲンコツをよけた拍子に、惠はベッドにころんと転げた。  その後もケラケラ笑う弟に呆れながら、瑛一も端に腰かけた。  屋敷に戻っても、瑛一は自分に用意された部屋へ行かなかった。  未成年の惠を送れば、すぐに出て行くつもりだったからだ。  それでもこの弟をひとつ凹ませてやらねば気が済まなかったので、そのまま惠の部屋へ居座っていた。  ところが逆に、凹まされるような事ばかり言ってくるのだ、弟は!  さらにその上、悪乗りしたおふざけを惠は放ってきた。 「ね。彼女さん、いただけなかったんだから、代わりに僕を食べちゃってもいいよ?」 「な……ッ」  そしてまた、楽しげに声をたてて笑うのだ。 「あ、やっぱり男の子は抱いた事ないんだ~」  どこまでも自分をからかう惠に、瑛一はお灸をすえてやることにした。 「あっはは。んぅッ!?」  不意打ちのキス。  舌こそ挿れなかったが、深く熱いキスを、瑛一は惠にお見舞いしていた。 「……」  始まりとは逆に、ゆっくりと唇を放した。  弟の唇は柔らかで、とても甘かった。 「ようやく黙ったな。さあ、もう寝ろ。俺も行く」  信じられない、といった目を宙にさまよわせ、唇を指でなぞっていた惠だったが、瑛一への言葉は意外なものだった。

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