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第一章・12
「……兄さん、どうして目を閉じないの?」
「は?」
「どうしてキスの時、目を開けたままなのか、って訊いてるんだよ」
「普通、開けたままだろう」
「閉じるよ、もう! 解かってないんだから!」
あろうことか反撃してきた惠に、瑛一は困惑した。
しかし、その言い分やキスの時の仕草などをつらつら述べる惠が、だんだん小うるさくなってきた。
「やけに詳しいな。どこかの誰かとキスする時には、お前が実践してやれ。それとももう、経験済みか?」
「経験済みだよ、キスくらい。それ以上の事だってだって、兄さんの知らないところで……」
もう一度、瑛一はキスをした。
惠に、弟に、深くて熱い、そして大人のディープキスを。
離れた時、惠はもう何も言わなかった。
どこで誰と何をしようが、結構。
だけど、それを俺に話すな。
それこそ兄の、まだまだ幼い独占欲ではあった。
しかし自分では気づかない。
ただ、妙に癇に障ったのだ。
小さい頃からいつも可愛がってきた弟が、他の誰かのものになる。
俺の知らない惠になる。
それがただ、いらだたしかった。
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