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第一章・13

「どうして……?」 「何だ」 「どうして、キスの前に煙草なんか吸ったのかな。何かもう、台無し……」 「まだ言うか」  どうしてこう、いろいろと注文がうるさいのやら!   今からガムを噛んでもよかったが、弟相手にそう何度も何度もキスをするのも変な話だ。 「これが俺のキスだ。諦めろ」  少し怒気をはらんだ兄の声に、惠はようやく黙った。  黙る前に、爆弾を落としたが。 「……初めてだったのに」  ぽつりと零したその一言は、何だか震えているようで。  小さい時に散々見てきた、べそっかきの惠の顔が思い出されて。  いやいや、それより。  まさか。  まさか、この俺が……。  惠のファースト・キスの相手か!? 「経験済みじゃなかったのか、キスくらい。俺の知らないところで」  返事が無い。 「その、何だ。すまなかったな」  どうしていいか解からず、ただ謝っていた。  冗談半分だったとはいえ、惠を傷つけてしまったと思ったのだ。 「ううん」  瑛一の詫びには、首を振る惠だ。これは許してくれるのか。 「嬉しかった」

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