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第一章・14

 嬉しかった、だと。  ベッドに転げたままの惠に、昼間の言葉が重なった。 『僕を相手にする事もあるから、きっと雰囲気で見間違えたんだと思います。僕も……いけない事だって解かってるんですけど……やっぱり拒めなくって……』  こくり、と喉仏が動いた。  いや馬鹿な。  この俺が弟を、なんて。  渦巻く思いを振り切るために、瑛一は勢いよくドアへ向かって歩き出した。 「兄さん!」  返事は、あえてしなかった。 「今度は、煙草吸わないでね!」  無理に笑いを含ませた惠の声を背中に聞きながら、ドアを閉めた。  あるのか? 今度が。  答えの出せないまま、夜の街へ溶けてゆく瑛一。  ただ、今すぐあの女と別れるために電話の準備をした。

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