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第一章・17

「どうして兄さんが、ここに居るの!?」  日曜日だから、と少し寝坊してダイニングへ行った惠を待っていたのは、とぼけた顔をしてパンをかじる瑛一の姿だった。 「居ちゃ悪かったか?」 「悪くはないけど……」  何といっても、昨日の今日なのだ。  顔が熱くなる。  頬が赤くなってくることが、自分でも解かる。  変に意識して、言葉が出なくなる。 「瑛一様、ピーナッツバターとハチミツ、どちらがよろしいですか?」  以前は惠が訊きそうな事を、代わりに使用人が言っている。 「惠、お前の横にある、黒ゴマのペーストを取ってくれ」 「あちらでございますか!」  和気あいあいと賑やかな食卓に、惠はぎこちなく混ざっていった。 「はい、兄さん」 「うん」  目が合った。  だが、瑛一は何事も無かったかのように瓶の蓋に手を掛ける。  ペーストをパンに塗り、ただ頬張るだけだ。

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