19 / 163
第一章・19
「兄さん、どうしてるかな。もう、外へ出ちゃったかな」
そう呟いてから、惠は眉根を寄せて頭を抱えた。
居ても居なくても、瑛一のことを考えてしまう。
兄さんの事で、いつも頭がいっぱい。
頭いっぱいの兄さんが、心にまで忍び込んできたのはいつからだろう。
自室へ戻り、ベッドに腰掛け膝を抱いて丸くなっていた。
ぎっこんばったんと体を揺らしていると、ドアの方から声がした。
「惠、入るぞ」
「兄さん」
返事も待たずに、瑛一はずかずか部屋に入ってくる。
ああ、どうして『兄』という人種は、こうもデリカシーがないのだろう!
この部屋に二人になると、昨夜のキスの事を嫌でも思い出した。
悟られないよう、惠は一生懸命に何気ない口調で瑛一に話しかけた。
「何? 兄さん。僕に用かな」
「ああ。こいつを洗濯しといてくれ」
がっくりと惠は肩を落とした。
先程、惠がミルクで汚した瑛一のボトム。
あれが目の前に付き出されている。
「兄さん……」
「なんだ」
「ううん、何でもないよ……」
ともだちにシェアしよう!