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第一章・20

 キスの話題になったら、実に気まずい心地になるに違いない、と警戒していた自分が恥ずかしい。  このとおり、兄は全くそんな事など考えちゃいない。  すでにもう、忘却の彼方なのだろう。 (でも、その方が兄さんらしいよね)  ボトムを受け取りベッドから立ち上がろうとすると、瑛一はついでの様にぽろりとこぼした。 「あぁ、あの女とは別れたからな」 「な……ッ!」  何でそんなことするの、との気持ちより、何でそんなこと僕にわざわざ言うの、といった感情の方が強かった。  一拍置いてようやく、世間一般が返すリアクションを、惠は瑛一にぶつけていた。 「どうして? すごく素敵な人だったのに」 「いろいろ理由はあるが、背中を押したのは俺の浮気だ」 「兄さんが! 浮気!?」  弟の目から見ても、硬派な兄だ。  まさか浮気なんかしそうにもない男だ。  動転する惠に、瑛一はこれまた淡々と言ってのけた。 「キス、しただろ。お前と。デートの後に、別の奴とキスするのは間違いなく問題行動だ」

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