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第一章・21
「僕のせい!?」
慌てる惠の髪を、瑛一の大きな掌がふわりと撫でた。
「お前のせいじゃない。俺自身の問題だ」
「兄さん」
お前とのキスは、具合がよかったぞ、と瞬の鼻をつまんで笑う瑛一だ。
別れ話の引き金となったキスだったが、一方でこうやって笑い話にしてしまう兄に、惠の心は大きく揺れた。
「ね、兄さん。煙草、吸ってない?」
「まだ吸ってないな、そういえば」
『今度は、煙草吸わないでね!』
あの時の言葉、すっかり忘れてしまってるんだな。兄さんは。
食後の一服を、とポケットから煙草を取り出そうとする瑛一の手を、惠は押しとどめた。
「待って」
「どうした? この部屋は禁煙か」
(そうじゃなくって!)
どこまでも鈍感な兄だ。
これはあの彼女だった人も、相当苦労しただろう。
どんどん不機嫌になってゆく惠だった。
もう、知らない。
気持ち悪いキスして、兄さんのこと嫌いになっても構わない。
だって、全部兄さんのせいだもの。
兄さんが全部悪いんだ。
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