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第一章・22
かんかんに滾った頭を冷やすように、瑛一の手のひらが惠の額に当てられた。
「今度は、煙草吸わないでね、だったな」
「兄さん?」
あ、と思う間もなく抱き寄せられ、唇を奪われた。
2,3回軽くついばんで、角度をつけてゆっくりと押し当てられた唇からは、瑛一の熱が伝わってくる。
兄が離れた時、惠の興奮しきった頭は、すっかり落ち着きを取り戻していた。
ディープキスではなかったので、舌の異物感を覚えずに済んだ。
ただ可愛らしい、優しいキスだった。
「目もちゃんと閉じたぞ」
「あ……」
昨夜は悪かった、と瑛一は惠に再び詫びた。
「キスがトラウマになるとまずい。今ので上書きしておけ」
「ん……」
「じゃあ、洗濯は頼んだぞ」
「あ、ぅん……」
それきりで、瑛一は部屋を出て行った。
どうしよう。
すごく素敵なキスだった。
「上書きしたって。これをさらに書き換えられる人って」
兄さん以外、いないじゃないか。
「ああ! どうしよう!」
そう声を上げてから、惠は笑顔で頭を抱えた。
頭の中は、やはり瑛一でいっぱいだった。
心の中まで、瑛一でいっぱいになり始めていた。
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