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第二章・5

 ひどい、と思った。  ふるふると、体が震えてくる。  僕にキスしたくせに。  無理矢理、僕にキスしたくせに。  だのに、他の女の人とエッチするから、この部屋には来ない、なんて言っている。  惠は、すい、と椅子から立ち、床に座る瑛一の目線まで降りていった。  ふくれっ面で、口を尖らせ、上目づかいで睨み付けながら、ぼそりと言った。 「兄さんの、スケベ」  ぷはッ、と瑛一は笑いかけたが、その息は飲み込む事となる。  惠が突然、キスしてきたのだ。  ココアでも飲んでいたのか、惠の唇はひどく甘かった。  以前自分で言っていたように、瞼を閉じて無心に唇を合わせてくる。  そろそろと伸ばしてくる弟の舌は細く華奢で、それでいて滑らかで。  瑛一が自ら薄口を開けると、おずおずと中に入って来た。 (どういうつもりだ)  咥内へ舌を伸ばし、兄を求める惠の真意を、瑛一は図れないでいた。  ただ、一生懸命に舌を絡ませようとする惠の必死さはいやに愛くるしく、そそられた。  だから、そっと腰に手をまわした。

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