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第二章・7
自分でも信じられないくらい、甘い声が出た。
悔しいことに瑛一は終始無言で、ただその唇と舌だけが雄弁だ。
兄さんは目を閉じているか、というのは後になってから思いついたことで、すっかりキスに呑まれている惠は、何も考えられないくらい頭が真っ白になっていた。
長い熱いキスが終わり、瑛一がそっと離れた途端、惠はかくんと姿勢を崩してしまった。
「どうだ? 大人のキスは」
「兄さんの……、バカ……」
頬を染め、涙目で、はぁはぁと息の荒い惠を見た時、改めて瑛一はぞくりと来た。
まだ高校生のお子様のくせに、何て色気を持ってるんだ。
しかし、そんな惠は大きく息を吸うと背筋を伸ばし、もう一度瑛一を睨みつけてきた。
涙目で睨まれても困るのだが。
「僕だって、エッチくらいできるよ。キスだって、ほら。ちゃんとできたでしょう?」
だからやっぱり、僕の部屋へおいでよ、という惠が、瑛一にはたまらなく可愛かった。
そんなことを証明するために、わざわざ自分からキスして来たのか、この弟は!
「お前が、俺に抱かれてもいい、って言うのか?」
「そう」
誘っている、というにはあまりにも意地っ張りのふくれっ面だ。
瑛一はぐんと顔を近づけ、もう一度惠の腰を抱いた。
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