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第二章・9

 それはそうだろう、と瑛一は顔を上げ惠を見た。 「お前がシノギと決まったんだ。好きでもない女とこれ以上縁を繋いでおく必要があるか?」 「やっぱり好きじゃなかったんだ……」  なんとも薄情な兄の一面を見た惠だったが、自分に対する愛情はこれっぽっちも疑ってはいなかった。 (あんなキスしてくれるんだもの。兄さんは、僕のこと好きだよね)  そう思うと、ひとりでに頬が緩む。 「何だ、にやにやして」 「何でもない」  宿題の続きをしようとデスクについた惠だったが、もう何も手につかないほどに舞い上がっていた。

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