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第二章・11
自分から『抱かれてもいい宣言』をしてしまったのだ。
兄さんが求めてきたらどうしよう、と胸をどきどきさせる夜が続いた。
しかしそんな惠の不安を知ってか知らずか、瑛一は呑気に振る舞っていた。
ゆるりと惠の部屋に上がり込み、土産のたい焼きを手渡し、時には宿題の相談を受ける。
そして夜には、惠のベッドで眠る。
部屋に寝具は一つしかないのだ。当然、兄弟ふたりで仲良く寄り添って眠る。
弟の緊張など知らぬように、ただ眠る。
現に瑛一は、惠に手を出さなかった。
まったく健康的に、ぐうぐうと眠るだけだ。
惠は、指を唇に沿わせた。
「キスくらいは覚悟してたんだけど」
瑛一は、兄は今日尋ねてくるだろうか。
だとしたら、今夜も泊まっていくだろうか。
そうしたら、やはりただ眠るだけだろうか。
「やだな、何か期待でもしてたワケ?」
そんなはずはない、と惠は宿題のプリントをバッグに収めた。
僕と兄さんは、血のつながった兄弟なんだ、と。
そんな間違いなんか、犯しちゃいけないんだ、と薄っすら漂っていた想いに蓋をした。
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