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第二章・17
「惠、上を見ろ」
「……あ、星」
こんなにたくさん、と惠はその星空に驚いた。
「冬は空気が澄むからな。星がよく見えるぞ」
「うん」
藤堂邸は郊外にあるので周囲の照明が少なく、夜の闇が深かった。
そのせいもあって、星は美しく瞬いていた。
「兄さん、流れ星だよ」
「ずいぶんゆっくりだな。人工衛星かもしれない」
役目を終えた衛星が、燃え尽きながら地球へ帰ってくるのだ、と瑛一は話した。
「まるで俺たち人間のようだな。役目が終われば、燃え尽きて消える」
「そんな淋しい事言わないでよ」
惠はもう、泣いてはいなかった。
冬の空気に背筋を伸ばし、瑛一の手をしっかりと握っていた。
「兄さんは、役目が終わったら僕の所へ帰ってきて」
「惠」
「絶対だよ」
「憎い事を言うなぁ、お前は」
瑛一は、惠を見た。
真っ直ぐにこちらを向く弟の頭は、もう冷えたようだ。
ぐい、と瑛一は惠を引き寄せた。
「兄さ」
「黙ってろ」
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