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第三章・6
辺りは暗くなり、瑛一の寝息が聞こえる。
だが惠は眠れなかった。
兄さんが。
兄さんに。
熱かった体の中心は、すっかり平穏を取り戻している。
逆に心は、かんかんに火照っている。
もう、見た夢の内容まで見透かされているような気がして、惠はその晩ずっと眠ることができなかった。
明け方、ようやく惠がうとうとしかける頃に、瑛一は目覚めて一人冷や汗をかいていた。
(何か……、とんでもないことをしたような気がする)
半ば寝ぼけて思考がハッキリしないまま、惠を手で慰めた。
溜まってるのなら、抜き方を教えてやる、くらいの気持ちだった。
しかし、根が真面目な惠にそれが通じるかどうか。
(いや、真面目とはかぎらないな)
時折、こちらがどきりとするような言動で翻弄してくる弟だ。
逆手にとって、迫ってくるかもしれない。
「その時は、その時か」
小さくつぶやき、背を向けて丸くなっている惠を見た。
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