51 / 163
第三章・10
冗談からは、程遠い顔つきの惠だ。
何かあったのかと瑛一は探ろうかと思ったが、やめた。
何かあってもなくっても、今ここで惠をなだめられるのは、同意だけだ。
「解かった」
途端に、挑むような顔をしていた惠の表情が緩んだ。
大きく深く、だが短く息を吐き、いつも通りの笑顔になった。
「じゃあ、今夜は兄さんもお風呂に入ってよね」
「いつもは汚いような事を言うなぁ」
後は浮き浮きとしたような所作で、瑛一のコートをクローゼットに納める惠だ。
そんな子どもっぽい弟を眺めながら、瑛一は小さく息をついた。
(思っていた通りになったか)
ともだちにシェアしよう!