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第三章・10

 冗談からは、程遠い顔つきの惠だ。  何かあったのかと瑛一は探ろうかと思ったが、やめた。  何かあってもなくっても、今ここで惠をなだめられるのは、同意だけだ。 「解かった」  途端に、挑むような顔をしていた惠の表情が緩んだ。  大きく深く、だが短く息を吐き、いつも通りの笑顔になった。 「じゃあ、今夜は兄さんもお風呂に入ってよね」 「いつもは汚いような事を言うなぁ」  後は浮き浮きとしたような所作で、瑛一のコートをクローゼットに納める惠だ。  そんな子どもっぽい弟を眺めながら、瑛一は小さく息をついた。 (思っていた通りになったか)

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