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第三章・11
時折、こちらがどきりとするような言動で翻弄してくる弟だ。
逆手にとって、迫ってくるかもしれない。
こんな風に彼の事を考えた、2日前の明け方を思い返した。
そして、その時の結論は。
「その時は、その時か」
「え? 何?」
「いや、何でもない」
チェスの駒は、惠が大きく動かした。
だが、まだ間に合う。
チェックメイトになっても、まだ間に合う。
俺たちは兄弟だから、と諭すことができるのだ。
こんなことは止めるようにと、説得することができるのだ。
兄さん、僕の事好き?
惠の問いかけが思い出された。
そして、好きだと答えた。
好きなら、好きだから、抱くのか? 惠を。
弟でも、関係ない。
そんな垣根は大きく越えて、好きだと抱くのか。
惠が、湯を使っている。
時間はもう、あまりない。
結論の出ないまま、瑛一は惠の使うシャワーの水音を聞いていた。
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