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第四章・16
「兄さ……、ん……」
やがて、かすれた声で惠が話しかけてきた。
「何だ」
ちゅ、と軽くキスをした。
それで惠の瞳は、甘えた光をたたえることができた。
「何て言ったら、いいんだろ。こういう時」
瑛一は、惠の顔を見た。
満足げな笑み。艶っぽい瞳。そして、涙の痕。
「悦かった、と言うんだ」
そう、と惠は恥ずかしげに頬を染めた。
「よ、かった。悦かったよ、兄さん」
「そうか」
抱き合い、肌を擦り合わせた。
再び胸の奥の火が炎をあげそうになったが、瑛一はこらえた。
すがりついてくる惠。
そんな弟を、ただ抱きしめた。抱きしめるだけにとどめた。
初めてだったのだ、こいつは。
そんな彼の初夜に、無理はさせられない。
「兄さん。僕の事、好き?」
「好きだ、惠」
「僕も兄さんの事、大好き」
今は苦も無く言えるようになってしまった、好きだという言葉。
二人でその言葉を味わいながら、抱き合っていた。
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