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第四章・17
飯だ、と瑛一は惠にトレイに乗った朝食を手渡した。
「ありがと、兄さん」
惠はベッドの上にいた。
さすがに昨夜の今朝だと、体がだるくて起きられない。
それに、朝食の席で執事たちに会うのも気恥ずかしい。
「兄さんは? 食べたの?」
「ああ」
テーブルの上にあったものを、適当に頬張ってきた、との瑛一の返事に、惠は顔を赤くした。
「執事さんたち、いたんでしょう?」
「いたぞ。それがどうかしたか」
嘘、と惠は耳まで赤くなった。
「だって兄さん、昨夜僕の事……。何とも思わない?」
別に、と瑛一は涼しい顔だ。
「バレたわけじゃないし、話したわけでもない」
「神経太いなぁ」
ため息を一つついて、惠は柔らかなパンをちぎった。
早く食べてしまおう。そして、兄さんにお願いがあるのだ。
幸い瑛一は、惠が食事を終えるまで傍に居てくれた。
特におしゃべりが弾んだわけじゃない。
でも、ただそこに居てくれるだけで、こんなに安心できる。
そして、どきどきしてくる。
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