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第四章・19

 笑いながら、瑛一は惠に問うた。  そう、さっき朝食が終わったら、行きたいところがある、と言っていたのだ。 「それで、どこに行きたいんだ?」 「あ、そうそう。アイス食べに行こうよ、兄さん」 「アイス?」  うん、と惠はうなずいた。  月が替わってから、新しくなった期間限定のフレーバーをまだ食べていない、と惠はベッドから起き出した。 「エスプレッソモカ、っていうフレーバーなら、兄さんでも気に入ると思うんだ」  あまり乗り気でないような兄を動かそうと、惠は一生懸命にアイスの魅力について喋った。  やけにはしゃいで見せるそんな惠の眼を、瑛一は意地悪く覗きこんだ。 「惠」 「ん?」  少しだけ、目を逸らす惠だ。 「お前、照れてるのか」 「や! ちょ、何でそんな!」  否定の言葉をもごもごと丸めていた惠だが、やがて静かに瑛一と向き合った。 「うん。少し恥ずかしい」  昨夜、とうとう兄さんに抱かれた。  兄弟の一線を、越えてしまった。  ベッドの中で、あんなことをしたし、こんなことも言った。  

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