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第四章・20

 そして、今朝の兄さんは、今までとは違う兄さんなんだ。  僕のことを抱いた兄さんなんだ。  その兄さんが、目の前にいる。 「恥ずかしい……」  下を向いてしまった惠の髪を、瑛一は軽く掴んだ。 「あまり深く考えすぎるな」 「でも」 「アイス食いに行くんじゃなかったのか?」 「いいの?」  早く仕度しろ、とトレイを下げる兄が優しい。 「ありがとう、兄さん!」  片手をあげ、部屋から出ていく瑛一の背中が、やけに広く感じられた。 「こうしちゃいられない」  惠はベッドから降りると、勢いよくパジャマを脱いだ。  この体も、昨日までの僕の体じゃない。  だけどそれは、恥ずかしいことじゃなくって、素敵なことなんだ。  すっかり明るくなった朝の陽ざしは、惠の心も隅々まで照らしてくれた。

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