76 / 163
第五章・4
「気に入ったみたいだな、バイク」
「うん!」
そしてタンデムのメットは、瑛一の後ろに乗ることを許されたパートナーの証のようで誇らしかった。
「でも、僕も自分のバイクで走ってみたいな。後ろには、兄さんを乗せてあげるね」
「その意気だ。免許を取ったら、このバイクを貸してやるぞ。二人で練習しよう」
「本当!?」
ああ、なんだか幸せ!
藤堂の家に入って、大きなお屋敷で何不自由ない暮らしをして、学校にも行かせてもらって。
それはとてもありがたい事だけど、同じような毎日でちょっぴり退屈だったんだ。
でも、もし兄さんとバイクの練習ができるようになったら……!
惠の頭の中には、教習所へ送り迎えをしてくれる瑛一の姿や、兄の単車で練習をする自分の姿が次々と浮かんでは消える。
「惠、……惠!」
は、と気づくと、惠の顔の前で瑛一が手をひらひらさせている。
「ご、ごめんなさい、兄さん!」
そして二人は、アイスクリームショップへと入って行った。
ともだちにシェアしよう!