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第五章・4

「気に入ったみたいだな、バイク」 「うん!」  そしてタンデムのメットは、瑛一の後ろに乗ることを許されたパートナーの証のようで誇らしかった。 「でも、僕も自分のバイクで走ってみたいな。後ろには、兄さんを乗せてあげるね」 「その意気だ。免許を取ったら、このバイクを貸してやるぞ。二人で練習しよう」 「本当!?」  ああ、なんだか幸せ!  藤堂の家に入って、大きなお屋敷で何不自由ない暮らしをして、学校にも行かせてもらって。  それはとてもありがたい事だけど、同じような毎日でちょっぴり退屈だったんだ。  でも、もし兄さんとバイクの練習ができるようになったら……!  惠の頭の中には、教習所へ送り迎えをしてくれる瑛一の姿や、兄の単車で練習をする自分の姿が次々と浮かんでは消える。 「惠、……惠!」  は、と気づくと、惠の顔の前で瑛一が手をひらひらさせている。 「ご、ごめんなさい、兄さん!」  そして二人は、アイスクリームショップへと入って行った。

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