79 / 163

第五章・7

「元気か」 「おかげさまで、何とか」  短い、兄と女のやり取りには、大人の匂いが漂っていた。 「惠クン、いいなぁ。乗せてもらってるのね、バイク」  惠の傍らに置かれたヘルメットを、女はこつんと叩いた。 「あたしがどんなに頼んでも、絶対乗せてくれなかったくせに!」  わざと忌々しい口調で、女は瑛一を見る。  兄は、どこ吹く風の知らんぷりを決め込んでいる。  瑛一の返事が無い事も気にせず、女はひらりと立ち上がった。 「じゃ、これからも二人で仲良くね」  振り向きもせず、鮮やかに去ってゆく後姿を惠は見つめていた。

ともだちにシェアしよう!