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第五章・7
「元気か」
「おかげさまで、何とか」
短い、兄と女のやり取りには、大人の匂いが漂っていた。
「惠クン、いいなぁ。乗せてもらってるのね、バイク」
惠の傍らに置かれたヘルメットを、女はこつんと叩いた。
「あたしがどんなに頼んでも、絶対乗せてくれなかったくせに!」
わざと忌々しい口調で、女は瑛一を見る。
兄は、どこ吹く風の知らんぷりを決め込んでいる。
瑛一の返事が無い事も気にせず、女はひらりと立ち上がった。
「じゃ、これからも二人で仲良くね」
振り向きもせず、鮮やかに去ってゆく後姿を惠は見つめていた。
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