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第五章・8

「驚いたか」  え、と惠は瑛一を見た。 「う、うん」 「気になるか?」 「それは……」  こくり、とひとつ頷いた。  兄さんの、元カノ。かつて愛し合っていた女性。  何があったんだろう、二人の間に。どんな思い出があるんだろう。  そう思うと、胸がざわめいて仕方がない。  まだ、たくさん残っているアイスクリームが、どんどん溶けてゆく。  手にしたカップの結露の水が、惠の指にたらりと落ちる。 「そろそろ出るか」 「うん……」  晴れ渡っていた惠の心に、薄雲がさしていた。

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