81 / 163
第五章・9
おかしいな。
バイクにまたがり瑛一に抱きつき、惠はタンデムシートで首をかしげていた。
少し走りたいから遠回りする、とは瑛一に聞いていた。
しかしこれは、遠すぎるのではないだろうか?
どんどん山へと入って行く。
ぐるぐる回る峠の途中で、バイクは止まった。
そしてそこには、一件の建屋があった。
『HOTEL ペパーミント』
「に、兄さん。ここって」
「入るか?」
惠は瑛一に、ブティックホテルへ連れて来られてしまった!
(入るか? って、決定権は僕にあるわけ!?)
兄さん、ずるい、と惠は泣きたくなる心地だったが、そこに浮かんできたのは、先程アイスクリームショップで再会した女だった。
兄さんはあの人と、こういう所で愛し合ってたんだ。きっと。
むぅ、と惠の唇が尖った。
負けられない。
兄さんもきっと、僕は怖気づくと思ってる。
それを証拠にほら、呑気に煙草なんかふかしてる。
僕だって、もう大人なんだからね!
「行こう、兄さん」
「惠」
「入ろう、ホテル」
驚いてる、驚いてる。
兄さん、予想が外れて、驚いてる。
惠は、ほくそ笑む気持ちで、瑛一に連れられホテルへ入った。
ともだちにシェアしよう!