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第五章・9

 おかしいな。  バイクにまたがり瑛一に抱きつき、惠はタンデムシートで首をかしげていた。  少し走りたいから遠回りする、とは瑛一に聞いていた。  しかしこれは、遠すぎるのではないだろうか?  どんどん山へと入って行く。  ぐるぐる回る峠の途中で、バイクは止まった。  そしてそこには、一件の建屋があった。 『HOTEL ペパーミント』 「に、兄さん。ここって」 「入るか?」  惠は瑛一に、ブティックホテルへ連れて来られてしまった! (入るか? って、決定権は僕にあるわけ!?)  兄さん、ずるい、と惠は泣きたくなる心地だったが、そこに浮かんできたのは、先程アイスクリームショップで再会した女だった。  兄さんはあの人と、こういう所で愛し合ってたんだ。きっと。  むぅ、と惠の唇が尖った。  負けられない。  兄さんもきっと、僕は怖気づくと思ってる。  それを証拠にほら、呑気に煙草なんかふかしてる。  僕だって、もう大人なんだからね! 「行こう、兄さん」 「惠」 「入ろう、ホテル」  驚いてる、驚いてる。  兄さん、予想が外れて、驚いてる。  惠は、ほくそ笑む気持ちで、瑛一に連れられホテルへ入った。

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