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第五章・17
そう言えば、あの女の人も、兄さんのバイクに乗ったことないって言ってたっけ。
惠はアイスクリームショップで偶然出会った、瑛一の元カノの事を思い出していた。
『あたしがどんなに頼んでも、絶対乗せてくれなかったくせに!』
そうだ。
兄さんの、今の恋人は僕なんだ。
そして、今までの誰より特別に扱ってくれている。
惠の胸は、喜びでいっぱいになった。
さりげなく手を握ってくる、兄の手のひらが大きく温かい。
「嬉しい。嬉しいな、兄さん。凄く嬉しい!」
「それなら今度から、デートコースに海は必須だな」
微笑む瑛一の顔が、優しい。
「海は確かに嬉しいけれど、それよりもっと嬉しいのは、兄さんが僕のためにいろんな事を考えてくれてるからなんだ」
バイクに乗せてくれたり、アイス食べてくれたり。ホテルに連れてってくれたり、海に来てみたり。
惠は指を折って、瑛一の思いやりを上げた。
「どうしよう。嬉しくて死んじゃいそうだよ、僕」
「大袈裟だな」
微笑む兄さんの顔が、優しい。
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