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第五章・18

「でも僕、兄さんに何にもお返しできないな。何かできる事、ある?」  お返しなんて。  律儀な惠の気持ちは、嬉しい反面おかしかった。 「損得勘定でお前と一緒にいるわけじゃない。妙な気をまわすなよ」 「でも」 「ここに。俺の隣に、こうしているだけで充分だ」 「兄さん」  ああ、もう。  どうしよう。  今すぐ、兄さんに抱きつきちゃいたい!  惠は、周囲をちらりと見た。  そこには惠と瑛一の他にも、人が居る。  人前で抱きつくのは、ちょっと……。  そこへ、瑛一の腕が伸びてきて、惠の肩を抱いた。 「にッ、兄さん!?」 「恥ずかしいのか?」  くい、と瑛一が顎で指す先には、寄り添い合う恋人たちの姿が。 「俺たちだけじゃない。気にするな」  うん、と惠は瑛一の肩に頭を預けた。

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