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第五章・19
波の音が聴こえる。
ああ、いろんなことがあった一日だったな。
兄さんには、驚かされてばかり。
身体を重ねてからでしか見る事のできなかった、兄の意外な一面。
惠はもう、瑛一の過去に付き合った相手のことを考えてはいなかった。
兄への疑念は、きれいさっぱり溶けて無くなっていた。
そうだ。
兄さんの、今の恋人は僕なんだ。
もう一度、心に噛みしめ小さく頷いた。
「どうかしたのか」
「ううん、何でもない」
波の音は小さく、時に大きく惠の胸をひたひたと潤した。
それは、新しく始まった兄との関係を祝福するように聴こえた。
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