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第六章・2
どさり。
当たり前のように、瑛一の腕の中へ落ちてきた惠。
もちろん、怪我ひとつ負わないで。
「気を付けろ」
「あ、ありがとう。兄さん」
惠だけには、兄の頬にさした赤味が見てとれた。
藤堂邸のダイニングに据えられた大きなツリーの星飾りは、その後執事が無事に取り付け、これで屋敷中がクリスマス一色に塗り上げられた。
「屋敷中を飾り付けるなんて、お前もまだまだ子どもだな」
「そう言わないでよ、兄さん。皆さん、すごく楽しそうなんだから」
瑛一は惠の部屋で、缶コーヒーを傾けていた。
コーヒーくらい、僕が淹れるのに、と言う惠の分までコートのポケットから出して見せた瑛一。
(今日のお土産は、この缶コーヒーか)
たかが缶コーヒーでも、惠にとっては嬉しい瑛一の気づかいだ。
空き缶はしばらくデスクの上に飾られることだろう。
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