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第六章・6

「兄さん、これも兄さんの自動車!?」  白く滑らかなラインの大きな車は、小銭で買えるような代物ではない。  バイクといい車といい、一体兄はどこからそんな資金を!? 「さすがにこれは、レンタカーだ。普段は4輪には乗らないしな」 「どうして今日に限って、車?」 「バイクじゃ、お前が寒いだろう」  ほわぁっと、惠はその言葉だけで温かくなった。 「瑛一兄さん、優しい……」  照れたのか、瑛一はこちらを向いてくれない。  ただドアを開け、助手席に乗るよう促した。 「早く乗れ。出かけるぞ」 「出かける、って。どこへ?」 「行けば解る」  静かなエンジン音とともに、車は滑り出した。  ラジオも音楽もなく、ただ静かな車内だ。 「兄さんがサンタクロースで、この車がトナカイの橇だね」 「人相の悪いサンタだな」 「そんなこと、ないよ」  そしてこのサンタクロースは、僕をどこに連れて行ってくれるんだろう。  惠は胸をときめかせながら、助手席に座っていた。

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