97 / 163
第六章・6
「兄さん、これも兄さんの自動車!?」
白く滑らかなラインの大きな車は、小銭で買えるような代物ではない。
バイクといい車といい、一体兄はどこからそんな資金を!?
「さすがにこれは、レンタカーだ。普段は4輪には乗らないしな」
「どうして今日に限って、車?」
「バイクじゃ、お前が寒いだろう」
ほわぁっと、惠はその言葉だけで温かくなった。
「瑛一兄さん、優しい……」
照れたのか、瑛一はこちらを向いてくれない。
ただドアを開け、助手席に乗るよう促した。
「早く乗れ。出かけるぞ」
「出かける、って。どこへ?」
「行けば解る」
静かなエンジン音とともに、車は滑り出した。
ラジオも音楽もなく、ただ静かな車内だ。
「兄さんがサンタクロースで、この車がトナカイの橇だね」
「人相の悪いサンタだな」
「そんなこと、ないよ」
そしてこのサンタクロースは、僕をどこに連れて行ってくれるんだろう。
惠は胸をときめかせながら、助手席に座っていた。
ともだちにシェアしよう!