98 / 163

第六章・7

 瑛一は自動車を、ホテルへ止めた。  以前行った、山の中のブティックホテルではない。  繁華街の中にある、ホテルだ。 「高級ホテルじゃないが、勘弁しろ」 「……」 「どうした?」 「う、ううん。何か、すごい……」  まだ高校生の惠には、クリスマスをホテルで過ごすという発想はなかった。  やはり兄は、大人なのだ。  高級ホテルじゃないが部屋はいいぞ、という瑛一の言葉通り、高い階にある二人の部屋は、素敵だった。 「兄さん、夜景! 綺麗!」 「喜ぶと思った」  展望台のような一枚ガラスの窓から見る夜景は、地上の星々のようにきらめいて美しい。  思わず見とれていた惠の背後に、瑛一が近づき腕を回した。 「メリークリスマス、惠」 「ありがとう、兄さん。メリークリスマス」  後ろから抱きかかえられた惠は、瑛一のぬくもりを感じながら夜景を味わった。  この光の元に居る人々の全てに、神様のお恵みがありますように。

ともだちにシェアしよう!