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第六章・8
やがて、瑛一が大きく息をついた。
「惠、ルームサービスで料理を用意してある。まずはそれを食おう」
「だから、腹八分目って言ってたんだね」
何と食卓には、ワインも用意してある。
瑛一はそれを少しだけ、惠のグラスに注いだ。
「一口だけだ。それから、俺のいないところで、酒は絶対に飲むなよ」
「は~い」
乾杯をしてワインを舐めた。
口当たりがよく、それでいて重厚な深みがある。
「兄さん、これって凄くいいワインじゃない?」
「解るか」
「おいしい」
一口だけ、が実に惜しい。
惠は洋酒の入ったチョコレートが大好物で、冬季限定の商品を楽しみにしているのだ。
「ね、兄さん。もう一口だけ」
「未成年は、ここまでだ」
「ケチ~」
料理も、美味しかった。
食材や味付けは藤堂邸のご馳走にはかなわないかもしれないが、惠にはそれが瑛一からの贈り物であることで、世界一の料理に思えていた。
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