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第六章・9
「はい、兄さん。食べさせてあげる。あ~んして」
「ワイン一口で酔ったのか?」
酔ったのは兄さんのせいだ、と惠は顔をほころばせていた。
素敵な自動車に、夜景。ワインに料理。
自分を喜ばせようとしてくれている兄のまごころが、よく解る。
そこへ、惠のよくない癖が首をもたげてきた。
兄さん、他の女の人とも、こうやってクリスマスを過ごしてきたのかな……。
訊いてみようか。
でも、こんなこと訊いたら、兄さん怒るんじゃないかな。
「しかし、俺がクリスマスを祝う日がくるとはな」
「え?」
瑛一はワインがほどよく回って、いつもより饒舌になっている。
「今まで24日、25日は、わざと予定をいれてたんだ。誘われても、断れるように」
「じゃあ、これまでクリスマスを楽しんだことないの?」
「お前のせいだぞ、惠。メリークリスマス、なんてこっ恥ずかしいことを言ったのも」
惠の胸は、みるみる熱くなった。
僕が初めて。
兄さんは、僕と初めてのクリスマスを祝ってくれてるんだ。
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