107 / 163

第六章・16

「あ~あ。魔法が解けちゃった」  朝、惠が目覚めたのは藤堂邸の自分のベッドだった。  ホテルで、兄さんと抱き合って眠ってたはずなのに!  きっと瑛一が、夜中にこっそり惠を屋敷に返したのだろう。  クリスマス25日の朝食の席に居ないとなると、皆が怪訝に思うからだろう。  当然、兄の姿もここにはない。  落胆しかけた惠は、枕元に紙包みを見つけた。 「何だろう」  開けてみると、そこには雪のように白い、ふかふかのニット帽が入っていた。 「わあ!」  そして、カードが一枚。 『プレゼントありがとう。お返しだ』 「兄さんの字だ!」  惠は瑛一へのクリスマスプレゼントに、バイク用のグローブを渡していた。  そのお返し、ということか。 「お返しだなんて。僕、兄さんに一杯いっぱいプレゼントをもらったのに」  ニット帽を、すぐに被ってみた。  温かく柔らかで、心の中までほっこりあったまる心地だった。

ともだちにシェアしよう!