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第六章・16
「あ~あ。魔法が解けちゃった」
朝、惠が目覚めたのは藤堂邸の自分のベッドだった。
ホテルで、兄さんと抱き合って眠ってたはずなのに!
きっと瑛一が、夜中にこっそり惠を屋敷に返したのだろう。
クリスマス25日の朝食の席に居ないとなると、皆が怪訝に思うからだろう。
当然、兄の姿もここにはない。
落胆しかけた惠は、枕元に紙包みを見つけた。
「何だろう」
開けてみると、そこには雪のように白い、ふかふかのニット帽が入っていた。
「わあ!」
そして、カードが一枚。
『プレゼントありがとう。お返しだ』
「兄さんの字だ!」
惠は瑛一へのクリスマスプレゼントに、バイク用のグローブを渡していた。
そのお返し、ということか。
「お返しだなんて。僕、兄さんに一杯いっぱいプレゼントをもらったのに」
ニット帽を、すぐに被ってみた。
温かく柔らかで、心の中までほっこりあったまる心地だった。
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