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第七章・5
二時間目の現国は、なんと瑛一が授業を受け持った。
担任の南先生は、後ろの方からその様子を見て指導書にチェックしている。
黒板に、見慣れた文字が大きく書かれる。
教室に、聞きなれた低い声が通る。
(なんだか新鮮)
普段では絶対に見ることのない、兄の姿だ。
「では、この時の『私』の気持ちだが」
誰か解る人、と瑛一が教室を見渡した。
(ああ! 僕、手を挙げたい!)
そして答えて、よくできたな、って褒めてもらいたい!
しかし先に手を挙げたのは、国語が得意な読書家・東野だった。
「主人公は、絶望したと思います」
その答えに、うん、と頷く瑛一。
「俺もそう思う、正解だ。だが」
得意げな東野に、瑛一は思いもよらぬ言葉を続けた。
「それは、試験向きの回答じゃない。残念ながら『落胆した』くらいの軽い気持ちが、この場合正解とされる。今の世の中ではな」
「そんなぁ」
「少し世渡り上手になれ、東野」
笑い声が上がる。
後ろ席の南先生は、困って焦っている。
「藤堂先生、そういう指導の仕方はちょっと……」
(兄さんらしいなぁ)
惠もまた、この一風変わった『藤堂先生』の授業を、楽しく受けていた。
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