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第七章・7
させられた、なんて、と惠は首を傾げた。
「勉強させてもらってる、って感謝してるよ。僕は」
「素直だな、惠は」
瑛一はそう言うと、コーヒーを飲み干した。
「さ、もう遅い。子どもは、もう寝ろ」
「兄さんは?」
「明日の授業の準備がある」
立ち上がる兄は、さっさとドアの方へ歩いてしまう。
惠は、思わず腕を伸ばしていた。
「待って、兄さん。どこ行くの?」
「自分の部屋だ」
あ、そうか、と惠は伸ばした腕をゆっくり収めた。
あまり寄り付かないが、この屋敷には瑛一の部屋も用意してあるのだ。
「心配になったのか? しばらく何処へも行かないから、安心しろ」
「兄さん……」
素早く歩み寄った瑛一は、惠に軽くキスをした。
「んッ」
「隙あり」
「もう! 兄さんったら!」
軽やかな笑いと共に、瑛一は惠の部屋から出て行った。
まだ柔らかな、温かな感触の残る唇を指先でなぞり、惠は笑顔になった。
「一か月……、兄さんと一緒……」
嬉しくて嬉しくて、クッションを高い天井に放り投げた。
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