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第七章・8
ぽーん、と空高くボールが飛んだ。
「次、藤堂先生いきますよ~」
生徒がよこしてきたボールを、瑛一が返す。
大きく弧を描いた球は、また次の生徒が誰かに返す。
昼休み、瑛一はクラスの生徒に誘われてバレーボールに興じていた。
いや、誘ったのは、おそらく惠。
数名の中の良さそうな友達と一緒に、ボール片手に近づいて来た時は驚いた。
声をかけたのは女子だったが、言い出しっぺは惠だろう。
(この俺が、子ども相手にバレーボールか)
自分で自分を揶揄してみたが、これも実習の内と思えばいい。
「藤堂先生、行くよ~!」
惠の声だ。
たとえ目を瞑っていても解る、まろやかなその響き。
朗らかな声とは裏腹に、速いサーブが飛んできた。
それすら手首で力を殺し、緩やかなトスに変えてしまう瑛一の運動神経に、生徒たちはみな驚きの声を上げた。
「凄い!」
「先生、バレーやってたんですか!?」
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