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第八章 じゃあ僕は、もう兄さんの弟を卒業しよう。

 瑛一の教育実習は無事終わり、彼は大学のキャンパスへ戻って行った。 「つまんないな。瑛一先生の授業、面白かったのに」 「今度は法律の勉強だ。忙しいことだ」  そんな風に言いながらも、ちっとも嫌そうではない瑛一だ。  もともと優秀で、勉強が好きな兄だ。  思う存分新しい知識を吸収できることが、かえって嬉しいのだろう。  惠の部屋でお茶を飲みながらそんな話をしていたが、その兄が急に曇った顔をした。 「憂鬱だ」 「何が? 大学?」  いや、と瑛一はカップから顔を上げて惠を見た。 「今度の、晩餐会のことだ」  ああ、と惠は納得した。  数日後、この藤堂邸で著名人を集めた晩餐会が開かれる。  瑛一と惠の二人も、絶対に出席するようにと父に釘を刺されているのだ。 「兄さん、皆で賑やかに過ごすことって苦手だもんね」 「家長の厳命だからな。仕方がない」  料理でも食べて気を紛らすさ、と瑛一は残りのコーヒーを一気に干した。

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