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第八章・10
2月14日、バレンタインデー。
瑛一の元には、三つのチョコレートが郵送されてきた。
父に勧められ、同時進行でお付き合いしている令嬢たちからの贈り物だ。
どれもが美しいラッピングのされた、高級チョコレート。
「惠、チョコやるぞ」
「いらないよ、そんなもの!」
「まだ怒ってるのか」
僕というものがありながら、他の人とお付き合いするなんて!
しかも、同時に三人だなんて!
「三人じゃない。四人だ」
瑛一は、惠に令嬢たちの写真を見せた。
ペガサス航空、杉本海運、ガゼルジャパン、そして、鎌田製薬の御令嬢だ。
整った顔立ちの知的な美女揃いの中、一人だけ目のくるくるした庶民的な顔がある。
「鎌田製薬のお嬢さんって、タヌキみたい」
「お前に似てるだろ」
「似てないよ!」
「俺はこの人が一番好きだ。お前に似てるから」
「誉め言葉にもなってないよ!」
惠の一方的な兄弟げんかの最中に、ドアがノックされた。
「瑛一様は、こちらにおいでですか?」
執事だった。
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