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第八章・12
「ね、食べてみようよ。兄さん」
「そうだな」
コーヒーを淹れ、小振りのケーキを二つに分けた。
一口頬張ると、濃厚なチョコと、あんずジャムのさっぱりとした味わいが素敵なハーモニーを奏でている。
「美味しい!」
「見事だな」
もう少し食べたい、というところで、ケーキは無くなった。
余韻も手伝い、惠は鎌田のお嬢様に一目置いた。
「すごいね。手作りでこんなケーキだなんて」
「少し太ったお嬢さんだからな。甘いものが好きなんだろう」
こんなに美味しいケーキを食べた後に、僕のチョコをあげるのは気が引けるな……。
しかし、瑛一はそんな惠の心配をまるで気にしてはいなかった。
「で? お前はくれないのか、チョコレート」
「え!? あの、その! 普通、要求するかな? 自分から!」
「無いのか?」
「ある! あるよ、兄さん!」
惠は、デスクの上に大切に置いておいたチョコの箱を、瑛一に渡した。
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